2017年大学入試問題の季節【04】 東大文Ⅱ 帰国生入試問題
☆東大入試問題のうち、海外帰国生が挑戦する入試問題や推薦入試問題は、ストレートに世界の最前線の問題や最先端の科学の成果をテーマとしてぶつけてくる。「思考力入試」の1つの確固たるモデル。今年度の文Ⅱの小論文も実におもしろい。
☆100年以上前の19世紀末のエドワード・ベラミーのユートピア論を持ち出してきているのに、なにゆえに、世界の最前線の問題や最先端の科学の成果がテーマになっているというのか?
☆国会図書館に所蔵されている貴重な古書「顧みれば」が、2016年10月に復刊刊行されたからだろうか?
☆それもあるかもしれない。たしかに最先端の科学の成果といえないこともないが、この本が復刊刊行されたその背景に、最前線の世界の問題が横たわっているからだろう。そして、問2で最先端の科学の成果を論述に盛り込むという仕掛けになっている。
☆このエドワード・ベラミーのユートピア論は、19世紀末を席巻した。イギリスでは、ウィリアム・モリスのアート&クラフツ運動にも影響を与えたし、この運動はラファエル前派とも合流した。ウィーンではアールヌーボ。少し遅れてドイツのバウハウスにも影響を与えたと思う。
☆このころイギリスに留学していた夏目漱石は、すっかりモリスとラファエル前派の影響をうけ、著書の中にも登場してくるぐらいだ。そして、もちろん、胃がキリキリする。というのも、漱石は国費留学であり、その後も官立学校、国立大学に勤務する。
☆この時代、つまり1989年明治憲法が制定されて以降、日本は社会進化論というダーヴィニズム路線で突っ走っることになる。この優勝劣敗主義に漱石はなじめなかった。そういう意味で、この世にはない理想の世界、ユートピアに憧れもあったのかもしれない。しかしながら、このユートピア、同時に勃興しつつあった社会主義というデストピアを生み出すリスクもある。漱石とその弟子芥川龍之介は、その狭間でジレンマに陥いっていた。一方宮沢賢治は、ユートピアを邁進した。それゆえ、生活はたいへんだった。
☆なんだ文学上のお話しかと思われるかもしれない。しかし、この問題は文Ⅱで出題されているのであり、文Ⅲの問題ではない。
☆ベラミーのユートピア論は、モリスに影響を与えたばかりではなく、ユートピア都市構想にも影響を与えた。その影響を如実に表現しているのが、エベネザー・ハワードによってイギリスのレッチワースにつくられた田園都市。今でいうエコに優しいコミュニティ都市。この都市構想は世界中に波及し、日本もその例外ではない。
☆今ある田園調布やたまプラーザなどは、この構想が下敷きになっている。土建国家日本の最後の構想は、再びこの構想に立ち還り、田園国家構想が大平首相の時代に立ちあがったのは記憶に新しい。このころこから各自治体は、ガーデニングを都市再生に起用した。
☆今年の中学入試でも、麻布や海城は、この土建国家VSユートピア都市をめぐる問題を出題し、未来都市を考える素材とした。
☆両校の教育は東大の世界問題意識とシンクロしている。つまり、3・11以来、スマートシティとかエコシティ、コラボレーションシティなどコミュニティシップがテーマになってきており、そこに第4次産業だとかインダストリー4.0の世界的な潮流がダイナミックに流れだし、AI社会に向かって新しい資本主義、新しい産業、新しい教育、新しい都市、新エネルギー革命などの問題意識が増幅しているのが今なのである。
☆ベラミーのユートピアは、SFや文学のみならず、未来都市というリアルな世界にも影響を与え、その流れが脈々と現在未来へと続いている。
☆そうそう国際連合設立や憲章にも影響を与えているから、なんと日本国憲法草案にも色濃く影響を与えている。
☆そして、「顧みれば」は明治憲法が成立する時代に出版されている。明治政府は、ユートピアを捨て、ダーヴィニズムを選択した。それは成長神話として、今の日本の政治経済をも支える底流。しかし、ダーヴィニズムではなく、普遍的な理想社会をめざし、それを今もなお理念としている団体がある。それが私立学校なのである。≪私学の系譜≫の根っこには啓蒙思想やユートピア発想がある。
☆2020年大学入試改革は、優勝劣敗主義の成長神話を維持するか公正的正義に基づく未来社会創りのプロジェクトを展開するのか、明治維新以来、世間が信じて疑いもしなかった流れを転換するかどうかの分岐点である。
☆東大や麻布、海城の入試問題にはそういう未来をいかにして創るのか歴史的背景がきちんと横たわっているのである。今年自由の森学園が生徒募集において注目を浴びた。時代の響きが共振共鳴共感するものは、明快になってきているのではないだろうか。
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