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2017年大学入試問題の季節【05】一橋大 帰国生入試 「学び」の時代/「思考力」の時代

☆今年の一橋大学の帰国生入試問題は、感慨深い。というのも、素材文が佐々木毅著「学ぶとはどういうことか」(講談社2012年)だったからだ。

☆この本を、佐々木さんが書こうと思い立ったのは、2011年3月11日の体験にある。東日本大震災の問題は、今もなお続いているし、重要な意味に私たちは気づいた。佐々木さんは、3・11以前は、想定の枠内で論理的整合性が理解できれば学びは十分だったし、思考の回路も、知識・理解(応用・論理的思考も含め)の2段階で十分だったのだと。

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☆しかしながら、3・11以降はがらりと発想が変わった。想定の枠外を学ぶ必要がある。論理的整合性があったものを疑うクリティカルシンキングが必要不可欠だし、想定の枠を「超える」創造的思考が必要な時代になったのだと。

☆この「知る」「理解」「疑う」「超える」という学びの4段階を主軸に書いたテキストを読んだうえで、次の問いを考える。

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(問題情報はGLICC提供)

☆1つ目と2つ目の問いは、文章に沿って要約する論理整合性の問題。「知る」「理解」の段階の思考力を活用する。

☆3つ目は、3段階目と4段階目の「学び」が必要な局面を具体的に考え、日本社会にその学びがどんな貢献をするのか提言する問題。

☆「学び」が「社会」を変え、新たに創る時代がやってきたのだと佐々木さんは語っているわけだから、当然そこに行きつくわけだが、これもまた、前回紹介した東大の文Ⅱの問題と同じトーンなのである。

☆東大の場合は、エドワード・ベラミーという19世紀末のユートピア作家を端緒として、ユートピアがデストピアになるパラドクスを考える問題だったが、一橋の問題も、3・11で露わになった虚構の現実を、いかに創造的に問題解決するのかという点でシンクロしている問題である。

☆一橋も東大文Ⅱも、政治経済社会のデザインをする研究をする学問の拠点だから当然という事なのだろうが、それにしても現状の社会の制度的整合性について考えるだけでは、満足せずに、その制度的欠陥を精査し、既存の制度的枠を「超えよ」というメッセージはすさまじい。

☆この一橋と東大文Ⅱのシンクロは何を意味するのか?考えてみれば、佐々木毅さんは、元東大総長で、恩師は福田歓一である。福田は南原繁の丸山真男の兄弟弟子であり、南原と同じくクリスチャンである。

☆南原繁は、内村鑑三や新渡戸稲造の系譜である。内村鑑三や新渡戸稲造は、≪私学の系譜≫の第二世代。第一世代は、福沢諭吉、江原素六、新島襄、矢島楫子である。

☆それゆえ、佐々木毅さんの「学ぶとはどういうことか」には、福沢諭吉の思想があたかもメインのように頻繁に引用される。

☆しかし、佐々木さん自身の主たる研究対象は「マキャベリ」なのである。そこを起点に、過去はプラトン、アリストテレスに立ち戻り、啓蒙思想家やヘーゲル、マルクス、福沢諭吉、未来へと進む。政治思想家であるから当たり前かもしれないが、いずれも激動の時代を乗り越える思想を創造した思想家を研究している。

☆特にマキャベリは、権力に翻弄される、ルネサンスから帝国へ移行する、つまりユートピアがデストピ阿仁向かうど真ん中で、都市国家を再生させ、いかによりよく生きるかを考え抜いた実践的思想家である。

☆佐々木さんは、それゆえ、マキャベリの何とか現状を「超える」学びに倣おうとしたに違いない。思想家は、疾風怒濤のごとくダイナミックに変わろうとしている時に生まれる。しかも、どうもその変わりゆく時代の方向性は、上記の思想家の場合、いずれもデストピアに傾くときである。

☆だからこそ想定の枠外を生み出す「学び」に期待がかかる。そして、そんな学びは以前からやってきたと嘯く愚者を、歴史は簡単に踏みつぶす。一度も「ユートピア」を目指しながら実現したことのない「学び」なのだから。

☆にもかかわらず、再び挑戦したい。佐々木さんとともに、よりよく生きれる社会を創る「学び」を子どもたちと共有したい。デストピアではなく、ユートピアの運命を引き寄せる技量を学びたい。

☆ところで、21世紀型教育機構は、2011年秋に発足したが、発起人メンバーは、佐々木毅さんと全く同じ思いだった。知識論理型思考ではなく、論理創造型の思考力を診につける授業改革の意義には、そういう意味があった。あれから、6年が過ぎた。

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☆今年2月19日に本機構は「新中学入試セミナー」を開催したが、創造的思考力を生み出す学びの時代の到来を牽引していることをある意味検証したセミナーだった。

参照ページ)

「2018年度 様変わりする中学入試を予想する」をテーマとするセミナーが開催(前編)

「2018年度 様変わりする中学入試を予想する」をテーマとするセミナーが開催(後編)

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