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2018年中学入試のベクトル【18】 麻布学園 vs 開成学園

☆麻布学園と開成学園の比較研究は、多くの方が行っているから、何をいまさらということなのだが、違う切り口がまだあるかもしれない。現象的には、両者の違いは、東大合格者数に如実に表れている。両者の共通点は、教師が若返っているということである。そこからアプローチしてみよう。

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(左から、麻布創設者江原素六、開成初代校長高橋是清)

☆東大合格者の数の違いは、授業の違いなどではない。麻布は学究的な教育を行っているから、必然的に学者になりたければ、東大に行きついてしまうだけだ。

☆意識としてはそれほどではないが、社会的構造としては、今もまだまだ学歴社会だから、研究生活をおくるとき、研究費や将来の生活を考えると、とりあえず東大に行っておくと有利だということ。

☆開成は、初代校長高橋是清が、優秀な官僚を生み出すために、東大に行くことを開成の目標として設定したから、その伝統が継承されている。近代官僚国家は今も続いているわけで、日本の財務事務次官などは、そのほとんどが東大法学部出身。官僚になって、内側から国を支え、正しき国家組織を運営する優秀な人材を養成しようというのが高橋是清の気概だった。

☆その気概が今も継承されているかどうかはわからないが、数的には今も継承されている。

☆このように、結果的に東大にいきつくというのと最初から東大を目標とするというのとでは、合格者数に違いが出るのは当たり前だ。

☆さて、全員が東大にいくわけではないのも両校共通な点だが、重要なのはこの生徒だ。おそらく能力的にはどこの大学に行こうが、あまり差はない。だから、東大という関連領域以外の世界で、彼らがどういう気概をもって社会に立ち臨むのかということが極めて重要なのだ。

☆ここに麻布と開成の何らかの教育力の差が顕れて来るからだ。学歴社会の中にありながら、そこから自由に羽ばたける機会を選んだ彼らが社会をどのように変えていこうとするのかしないのか。

☆ここの研究はまだ誰もしていないだろう。どなたかしてくれないだろうか。おそらくその差はどこででてくるかは、部活だとは思わない。部活というのは、特にスポーツの場合、ゴールが共通しているから、方法論や組織論は、どこの学校もそうは違わない。よって、部活から得る友情などは、麻布や開成に限らず、どこの学校でも同じだろう。これも比較したことはないからわからないが、そういう結果になるはずだ。

☆そうすると、どこで社会に立ち臨む人材としての志向性/指向性/嗜好性/思考性の差異が大きくなるのかというと、授業なのである。

☆ところが、授業がどのように運営され、どのようなカリキュラム内容(シラバスのような詳しい内容)が設定されているかは、実際のところわからない。特に開成は、サイトをリニューアルしてから、行事や部活については更新率が高くなっているにもかかわらず、授業の情報はほとんど流れていない。

☆企業秘密だから情報公開しないのか、それとも授業は古典的な形式だから格別情報公開する必要がないということなのかは、本当のところわからない。言えることは、その授業で東大合格者がたくさんでるということでないこと。もし、そうであれうならば、全員東大にはいってもおかしくないだろう。

☆麻布のサイトは、アップされた当時からつくりは全く変わっていない旧式であるが、情報内容はどこよりも新しい。授業シーンの写真も公開されているし、情報もかなり発信されている。それだけ、ユニークな授業であることに自負があるのだろう。

☆さて、しかし、問題は、両校とも団塊断層の世代が定年でどんどん退職していき、若い教師が入れ替わり立ち代わり流入してくることだ。しかも、OBとは限らない。いやむしろOBは少ないだろう。

☆このことが伝統を保守しつつ学内組織を活性化するのか形骸化するのか、それは重要問題だ。

☆両校の同窓力は絶大であるが、授業だけは、口を出すことはできない聖域なのである。麻布は、この点に関して、危機意識は高く、それに対応するべく、ベルリンフィルが仲間を採用するときと同じような仕組みをとっている。つまり、創造的才能者であるかどうかが問題なのである。

☆開成は、その点どうなっているのか情報公開していない。公開していないのは、企業秘密だからなのか、一般の採用の仕方と変わらないからなのかどちらかである。

☆どうやら、私立学校の学校選択は組織論から見たほうが、わかりやすいのかもしれない。そして、その学校の組織論が最も影響を与えるところは、授業である。聖域である授業をどのよういにマネジメントしているのか?この比較研究こそ最重要かもしれない。

☆前回取り上げた成立学園のような学校は、創設者や理事長が開成や麻布出身者で、新たな組織論を展開し、創造的才能者を採用している。授業や組織は開成以上に開成かもしれない。

☆渋谷教育学園の創設者田村先生が麻布出身で、武蔵や開成、灘、海外の名門校を研究し、麻布以上の授業を展開できる組織環境を創っている可能性もある。つまり、学究肌の創造的才能者を採用するのだが、自由とコントロールのバランスをかなり戦略的に意識している組織下に包摂するということ。

☆「入試問題―授業―組織論」という視角で学校選択を比較研究するということが求められる時代かもしれない。つまり、「入試問題―授業―組織論」の情報を発信している学校が、選ばれやすいという時代がやってきたのかもしれない。

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