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思考コードで入試問題を考える(1)武蔵のおみやげ問題

☆おおたとしまささん(育児・教育ジャーナリスト)の論考がYahoo10/12(木) 15:13に掲載されている。タイトルは、「あなたは解ける? 中学入試の名物問題 名門校が入試でネジや画びょうを配る理由」。痛快丸かじりでおもしろい。
 
☆内容については、実際に読んでいただくとして、記事の中で、武蔵のおみやげ問題の解答例が載せられているので、それについて考えてみたい。取り上げられていた今春の理科の問題はこう。
袋の中に、形の違う2種類のネジが1本ずつ入っています。それぞれのネジについて、違いがわかるように図をかき、その違いを文章で説明しなさい。ただし、文字や印、傷などは考えないことにします。(試験が終わったら、ネジは袋に入れて持ち帰りなさい。)
☆ほんと武蔵らしい問題。どんなねじが配布されたかは、おおた氏の記事をクリックしてくだされば、写真が載っている。 で、この「武蔵らしい」というのが、なかなか明快なようで、ちょっと不気味なのだ。
☆この不気味さが武蔵らしさ。おおた氏は、次のように語る。
「おみやげ問題」には武蔵の学力観・教育観が凝縮されている。入試のその場で、本物を観察して考察する。予備知識はほとんど必要ない。先入観をもたず素直に観察し、気付いたこと考えたことを述べればいい。そのようなことを楽しいと感じられる子供こそ武蔵で学ぶにふさわしいというメッセージが込められている。
☆そして、そのメッセージは、武蔵入学後の理科のカリキュラムから派出している。そのことについて、おおた氏は、理科の先生の言葉を次のように引用している。
「武蔵では入学後、たくさんの科学実験を行います。目の前で起きていることを素直に観察し、それがどういう原理に基づいているのかを自分の頭で考察し、内容が正確に伝わるレポートにまとめる訓練をくり返します。薬品を混ぜると色が変わるとか、爆発するとか、マジックショーみたいな実験ではありません。泥臭い作業をくり返し、地道にデータを積み上げます。しんどいのですが、それが科学や学問の礎です。それに耐えられる素養を入試では見極めます」
☆不気味さは、ここから出ている。もちろん、知的不気味さは、オルテガの「大衆の反逆」ではないが、20世紀近代社会を覆った大衆迎合的なものの見方や、それが最終的に生み出した可能性のあるポピュリズムのような流れに対し、クリティカルシンキングの役目を果たす。
 
☆しかし、そのクリティカルシンキングによると、あらゆるものはパラドクスを生み出す。知的不気味さもその例外でない。知的に正当化されてしまう排除の構造を埋め込んでしまうからだ。
 
☆「先入観をもたず素直に観察し」とか、「薬品を混ぜると色が変わるとか、爆発するとか、マジックショーみたいな実験ではありません」とかいう言説は、まさにそれを含んでいる。先入観を持たない人はいないし、「マジックショーのような実験」の含意は特定の何かを指していることは明らかだからだ。
 
☆これをもって、武蔵を非難しているわけではない。ただ、むしろそれを明らかにしたほうがよいと思っている。武蔵は先入観を持っている生徒は受け入れないし、大衆迎合的な消費活動のための学びは行いませんと。学校選択者には明快で、どうしようか迷うことはない。イエスかノーかすっきりする。
 
☆すなわち、「先入観をもって、立ち臨みながらも」、その先入観に気づき、自己変容するタイプの生徒は、武蔵を選択しないほうがよいわけだし、大衆迎合的な消費活動のための実験に好奇心をもって、そこからその背景にある重大な人間存在のなつかしさに到達するような潜在的才能がある生徒は武蔵を選択しないほうがよいということになり、迷わないで済む。
 
☆さて、おおた氏の引用している実際の合格受験生の解答例を見てみよう。
上からみると、Aの頭の形は丸いが、Bは正六角形になっている。Aの上面には正六角形のくぼみがあるが、Bの上面は平らになっている。横からみると、Aの頭の側面にはギザギザがあるが、Bにはない。Aのネジのみぞは、途中か
らはじまるが、Bのネジのみぞは上から下までずっとある。頭の部分はAの方が厚いので全体の長さはAの方が長く、Bの方が短い。
☆これを比較のスキルごとに箇条書きにしてみる。
①上からみると、Aの頭の形は丸いが、Bは正六角形になっている。
➁Aの上面には正六角形のくぼみがあるが、Bの上面は平らになっている。
③横からみると、Aの頭の側面にはギザギザがあるが、Bにはない。
④Aのネジのみぞは、途中からはじまるが、Bのネジのみぞは上から下までずっとある。
⑤頭の部分はAの方が厚いので全体の長さはAの方が長く、Bの方が短い。
☆そして、この5つの比較スキルで見出した内容を、図に置き換える。だから置換スキルが5つ加わる。つまり、思考スキル10個は使うことになる。表現しなくてはならないから、表現スキルも加わることになる。
 
☆すると、思考コードでは、B3ということになる。
 
Photo_2
 
☆たしかに、シンプルで端的な解答であるが、それは簡単な問題であるということを示すわけではない。むしろ、それが難しい問題になっているのだ。シンプルだけれど難しい。これが「武蔵らしい」ということなのかもしれない。
 
☆しかしながら、「シンプルで端的な」という意味は、簡にして要を得たという意味以外にもある。それは、たとえば、「横からみると、Aの頭の側面にはギザギザがあるが、Bにはない」と気づいた受験生の中には、この違いは、ねじがつなぐ素材が違うだろう。では、その違いはどんなイメージだろうと想像力を働かせてしまう子供もいる。
 
☆そうなると、シンプルにまとめられないから、武蔵の先生による次のような講評を招くことになる。
 
「受験生の多くが、2種類のネジの違いを認識できていることは伺えたが、『情報を正確に伝える』ことが不十分である答案が多かったのは残念である」
 
☆端的に目の前にあるモノから、情報を収集するだけではなく、そのモノの背景にある関係を汲みだそうとすると、C2とかC3の領域に突入することになる。それだと、情報を正確に伝えることが不十分になる可能性がでてくる。そうのような答案が多かったのは残念であるという評価をくだされるわけだ。
 
☆本当はそんなことはないはずであるが、塾としては、思考コードBで止めるように対策が行われる。見えるモノ以外は想像に過ぎないから、それは書かないようにと。かつて、東大受験をした大江健三郎が、その不気味さについて語ったことがある。なぜ浪人したか、想像してしまったからだ。問題がおもしろくて好奇心がふくらんでしまった。想いを馳せているうちに時間がきてしまったと。
 
☆だから、2度目は、想像力を抑えた。そしたら合格したと。要素還元主義でなければ合格できないということだろう。大江健三郎のように、戦略として要素還元主義的な手法をとるけれど、実際には関係総体主義であるというタイプもいるが、要素還元主義に合わせて、いつの間にか、プロクルステスのベッドに縛り付けられてしまうということもあろう。
 

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