思考力の3つ潮流
☆しかし、それが今では、学習指導要領の中に「主体的・対話的で深い学び」という文言で、収められている。果たして現場でそんなことまでできるのか?多くの懸念や疑問もでているが、少子高齢化が意味する生産年齢人口の激減と、コンピュータサイエンスのイノベーションが生んだAI社会が迫りくる中、まったく不足している高度技能の労働者の育成の急務が重なり、思考の領域を、「知識・理解・応用」(低次思考)から「論理・批判・創造」(高次思考)に拡大しなければならなくなった。それは国力の持続可能性という意味もあるが、そもそも時代の要請である。
☆そのような時代背景もあり、高度知能や高度技能の土台となる「高次思考」を育成するカリキュラムマネジメントが学習指導要領に設定された。そして、高次思考を育成する授業として、アクティブラーニングが導入されるのだが、この授業の評価をめぐり、極めて重要な事態が生じた。学力の3要素というのは、必ずしも認知能力だけではなく、かなりの範囲で非認知能力をカバーしてしまう。
☆今まで、認知能力をテストする評価だけでよかったのが、形成的評価だとか、ポートフォリオ評価だとか診断型評価だとか、ルーブリックによって、非認知能力や思考の過程まで評価する新しい評価方法が同時に導入されることになった。いったいどうやって、できるのか?
☆学習指導要領では、資質・能力までしか明示されていない。資質・能力の評価は、実に難しい。そこで、資質・能力を生み出す思考や判断、表現の「すべ」や「スキル」を可視化して、その技術を高めることと資質・能力の育成の相関を考えようという動きが鮮明になってきた。「可視化」「見える化」「形式知化」などの言葉が、現場で使われているのは、そういうことを示唆しているのだろう。
☆今年は、eポートフォリオの話題が世にお披露目されたので、この思考の「すべ」や「スキル」をめぐって議論がさらに進んだ。この思考の「すべ」や「スキル」に関して、現状では大きな3つの流れがある。
☆1つは、工学院を始めとする21世紀型教育機構や首都圏模試センターが大きな道を切り開いている≪思考コード―思考スキル≫の流れ。
☆もう1つは、新教育評価研究会が中心に各自治体に広めている≪「すべ」を生かした授業づくりと評価の方法≫の流れ。
☆さらにもう1つは、文部科学省初等中等教育局視学官田村学氏と関西大学総合情報学部教授黒上晴夫氏を中心として研究されている≪思考ツール―思考スキル≫の流れ。
☆いずれも、すでに自治体やコミュニティ、現場で制作され、活用されている。
☆それぞれ共通している部分もあるし違いもある。≪思考コード―思考スキル≫の場合は、思考の領域を見える化しているが、思考スキルは無限にあるので、いかにシンプルにするかは研究中で、仮説段階。もっとも授業というのはこの試行錯誤の過程であるのかもしれない。
☆≪「すべ」を生かした授業づくりと評価の方法≫は、4つの「すべ」に限定して使っているので、わかりやすいが、提案者自身、「すべ」を学ぶことを目的としないようにと注意喚起しているぐらいで、限定的すぎるかもしれない。また、思考の領域がまだ可視化されていないので、メタ認知の育成方法が明快ではない。
☆≪思考ツール―思考スキル≫は、「思考ツール」の使い方が前面にでていて、授業はわかりやすいが、スキルがなかなか定着しづらい。また、スキルが明示されているが、30以上あり、実用的ではない。そして、数学的思考スキルが欠けている。思考の領域が可視化されていないことは、≪「すべ」を生かした授業づくりと評価方法≫と同じ。
☆いずれも、一長一短で、今後さらなる試行錯誤や議論が行われていくだろうし、そのこと自体が日本の教育改革の好循環を生み出していくことだろう。
☆ちなみに、今公立で採用され始めているIB(国際バカロレア)のDPであるが、このプログラムや評価方法は、どこに似ているかというと、≪思考コード―思考スキル≫の流れに似ている。もっとも、IBは、「問いのスキル」が中心だろうから、また別の独自の流れだろう。
☆IBはやはり、ヨーロッパの啓蒙期という意味で近代の哲学がベースになっているが、「思考コード」派は、≪私学の系譜≫に基づき、欧米の哲学とアジアの思考方法をいかに統合するかというところが根っこになっている。昨今のヨーロッパの現代哲学や現代美術のカントの乗り越えという新潮流をすでに先取りしていると言えなくもない。
☆OECD/PISAの流れは、全国学力調査テストが与しているので、≪「すべ」を生かした授業づくりと評価の方法≫に近接している。実際、この方法論は、全国学力調査テストの分析をベースにしている。
☆≪思考ツール―思考スキル≫は、もともとオーストラリアの学校で広がっている21世紀型スキルに端を発しているようなので、IBなどとも親和性があるが、IBの高次思考まではカバーすることは目指していない。
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