2019年中学入試の新フレーム(04) 麻布の意志 微細で大きな変化
☆まず1つは、2013年以降、出願数は増え、実質倍率も上がっている。今年の出願数は、933人とかつての勢いを取り戻したかのようだ。しかし、実際には塾歴社会の影響をうけている。50%弱がそこからの合格者である。
☆塾歴社会は偏差値優勝劣敗型個人の集団の可能性が大で、そこでは、開成、筑駒がまず第一の層で、麻布は第二の層ということになるだろう。
☆もちろん、塾歴社会で学んだほうが効率がよいというので、いったんそこで学び、偏差値の高低に関係なく、麻布を選択するという受験生も多いと思う。
☆したがって、塾歴社会の影響を受けたくなくても受けてしまうジレンマを麻布はかかえている。一方で、受験生も影響を受けたくないが、塾歴社会でのトレーニングは確率が高くなるという効率性ゆえ、そこで学ぶというジレンマがあるかもしれない。
☆だから、実質倍率が増えているということは、繰り上げ合格を少なくするということを意味している。塾歴社会からの受験生が増えるから、もし2月11日の招集日に、筑駒に流れてしまった分を、繰り上げると、塾歴社会の受験生がなだれ込んでくる可能性が高い。
☆というのも、それ以外の塾からは、受験生の数が少ないから、繰り上げを待っている生徒はすでにいないからだ。麻布といえども、経営と教育の両輪のバランスは大切だから、ギリギリのところで、歩留まりや繰り上げ人数を考えなくてはなるまい。このギリギリの攻防戦を耐え抜いてきた結果が、出願数増につながった可能性が高い。塾歴社会以外からの受験生に可能性の門戸を開いているということを示唆する。
☆2つ目は、そのためには、思考力で勝負できる問題を創らなければならない。そのためには、知識問題は30%以下にして、重箱の隅をつついたような知識ではなく、教科書相当の知識や日常生活で習得できる知識におさえるということを行っているのではないか。
☆それゆえ、合格最低点が53%ぐらいになっている。現状で繰り上げ者の点数はカウントされていないはずだから、51%くらいまで下がるかもしれない。
☆これだと、塾歴社会の受験生でなくても戦えるのである。もともと麻布を受験する生徒は、知識をきっちり詰めることはしないから、標準的な知識だとしても30%きっちりとれるわけではない。そこを詰めることをするのなら、ドラえもんやゲーム、あるいは読書をした方がよいと思っているぐらいだろう。
☆しかし、考えることは基本好きだし、その時間を集中することも問題ないだろう。そんなわけで、入試当日、江原素六像に、お弁当は持った?携帯など電子機器は預けた?と言わせるのである。もちろん、受験生の緊張を解こうというユーモアもあるだろうが、意外とそういう詰めが素直に甘い男の子たちがたくさん麻布を受験するというのも否定できない。
☆ともあれ、地頭的な思考力だけでも闘える問題、つまり実質、思考力入試を行っているのだ。
☆いやいや、世にいう思考力入試は教科入試ではないからと言われるかもしれない。しかし、それは違う。これが3つ目の微差異だ。4教科とも生徒は受験するから、それぞれの教科の思考力に応じなければならない。
☆一般の4教科入試ならば、その教科特有の知識を交えながら、あるいは活用しながら論理的に思考する問題がたしかに出題される。しかし、それは、思考力全般を使うのではなく、あくまで知識をつなぐから、ヒントが知識の中にすでにあり、思考力を使わなくてもできるようにもなってしまっている。
☆ところが、麻布の思考力問題は、知識という前提をなるべく使わないで、その場で考えなければならないから、問題の問題は何かから考えなければならないし、比較や理由、抽象化などの思考スキルをさらに統合するスキルを活用するという意味では、どの教科でも共通している。
☆4つの素材は違うが、思考力は共通している。ただし、算数や理科のように、帰納的な論理的な思考と国語や社会のようにイマジネーションや創造性を論理的思考の制約の中に収めながら考えるという違いはあるが、このそれぞれ違う思考力を駆使するのは、1人の生徒の頭の中で行われるから、受験生はトータルな思考力をフル回転させることになる。
☆4つ目は、これはたまたまなのかもしれないが、国語と社会のメッセージが妙に強かったことである。それぞれ単独で見ると気づきにくいが、両方解いてみると、強烈なメッセージがそこにはある。受験生は当然両教科に挑戦するわけだ。
☆まず国語は、成長物語であるのだけれど、主人公の成長物語というのとは微妙に違う。互いに自己変容することで、チームが成長していく中で主人公わたしも成長していくという物語で、「共感」がテーマである。
☆一方社会は、社会の中に不安が生まれ、その増幅をいかに抑えるかという神話や宗教の儀式などの歴史をたどりながら、神話や宗教から脱した現代の問題にたどりつく。そこには、個人の心的構造の中に超自我的な存在がなくなっていくことによって、それが共感に置き換わり、SNSなどで、それが情緒的な共感の場合、炎上などの負の心理が蔓延するという不安の現代的構造を考える問題になっている。
☆ここにはイエール大学のポール・ブルーム教授の「反共感論」にシンクロする(直接影響を受けていないが時代の精神として同期しているという意味)何かがある。つまり、麻布の生徒になるなら、共感力と同時にその共感力の構造をクリティカルシンキングできる生徒であって欲しいというメッセージが濃厚だったのである。たまたまかもしれないし、考えすぎかもしれない。
☆しかし、麻布の先生方及び生徒の膨大な新刊を図書館で購入する伝統から推察するに、時代の精神をするどくキャッチする高感度なアンテナが立っているはずだから、そういうこともあるだろうし、その時代の精神や気分は、教師も生徒も例外ではなく、まさに身近な現象であるはずなのだ。それが理科の身近な現象を分析していく思考力を大切にする入試問題にも現れている。
☆そして、実は、21世紀型教育校は、麻布だけでは入学させることができない多くの思考力のある生徒を入学に導くために新タイプ入試を開始したのである。
☆麻布の場合は、ある程度偏差値が高い生徒であるにもかかわらず、思考力や才能を発揮する場がないことで悩んでいる生徒の拠点になっている可能性がある。
☆そして、偏差値が伸び悩み、本当は潜在的な才能や思考力があるにもかかわらず、まずは基礎力と称して、いくつもの知識のハードルを飛び越えないと、その才能や思考力を試してもらえない生徒に門戸を開放したのが、新タイプ入試で、濃厚なのは思考力入試である。
☆麻布と21世紀型教育校は、直接的には何の連携もしていないが、時代の病を知り、それを何とかしたいという時代の精神を共有することは、私学の系譜として論理必然的なことだと思う。
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