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2019年中学入試の新フレーム(56) おおたとしまさ氏 新刊書「地方公立名門校」で語る今後の中等教育の方向性。

☆おおたとしまさ氏の新刊「地方公立名門校」は、特に戦後の日本の高校の学歴社会及び塾歴社会の「ハヴィトゥス」形成史であり、そこから脱却する新たな可能性を探る力作。
 
☆それぞれの名門校の「ハヴィトゥス」は、伝統と革新のゆらぎを貫く無意識の文化的遺伝子とか深層行動規範構造とか文化資本を意味するが、フランスの社会学者ピエール・ブルデューが使っている用語と重なるとすると、階級構造や階層構造を露にすることを示唆する言説である。
 
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☆おおた氏は、学歴社会とか、氏自身のライフワークでもある「塾歴社会」というビッグ・ハヴィトゥスが今もなお成長している中で、それぞれの名門校のハヴィトゥスが包摂されている現状をインタビューと取材を重ねて炙り出している。これは、全国津々浦々取材に足を運んでいるからこそできる、ある意味偉業である。
 
☆私立公立問わず、戦後高校史の貴重な資料としても価値があると思う。
 
☆さて、このハヴィトゥス二重構造と個々のハヴィトゥスの多重性が、学歴社会の中の目の前の競争というベールで被われ、名門校の誇りが正当化されているのだが、そこもするどく論考している。そのおおた氏の問題意識は次のように結実する。引用しよう。
「公立高校間での格差是正」と「私立進学学校との格差是正」のどちらを優先するべきかという問いは、そのまま「公立高校の社会的意義は何か?」という問いに通じる。つまり、かつて東京都などで導入された学校群制度が目指したようにどこの公立高校も均一的に幅広い学力帯の生徒を受け入れるべきだとするのか、戦前のナンバースクールの制度のように公立高校の中にも学力帯による階層があってもいいとするのかという選択である。」
☆つまり、規制か緩和か、社会主義か自由主義かという、実は古典的な問題が通底しているのである。芥川龍之介が、夜を徹して親友である法哲学者恒藤恭と話し合ったが、龍之介自身、社会主義にも自由主義にも与することができなかった。それゆえ、憂鬱は解消されることなく、おそらく、そのパラドクスを解こうとすることは発狂するに近いものがあったのだろう。
 
☆それゆえ、プラグマティックに考えれば、自由主義のアレンジを変えるのがよいというのが時代の流れであるとおおた氏は考える。その例として、愛知県の複合選抜制を引き合いに出して、このような次善策があることを紹介している。
 
☆しかし、もしもどの自治体もそれを行ったとしたら、やはり元の木阿弥で、格差は消えない。はてさてどうしたらよのだろうか?おおた氏の結論は、≪たとすれば、育むべきは、個人というグローバル人材よりも社会の中の多様性。教育文化の多様化をさらに推し進めていく必要がある。それこそが、22世紀の未来に向けていまから「百年の計」で取り組むべき事業ではないだろうか。≫と。
 
☆私も経産省など産官学が語っているグローバルリーダー論には与みするものではないが、バックミンスター・フラーのいう意味での「宇宙船地球号」としてのグローバル世界の中の多様化といかに親和性のある学びを構築するかが大切だと思う。そういう意味で「グローバル教育3.0」を目指している。
 
☆教育制度を変えるには、たしかに100年かかるが、学びのネットワークは、実は公立私立関係なくその拡大は加速する。「21世紀型教育」という言葉を2011年に造ってから7年。あっという間に広がった。
 
☆私立学校だけではなく、来年開校予定の全国の公立中高一貫校は、もはや東大一点主義から解放され世界に目を向けるIBなどを導入する。21世紀型教育そのものでもある。
 
☆私たち仲間のプランでは、SGT(スーパーグローバルティーチャー)のネットワークの拡大というのがある。
 
☆制度を変えることも大事であるが、Growth Mindset、Critical Thinking、Creative Thinking、そして「思考コード」と「思考スキル」、「STEAM」の関係全体をプラグマティックに活用できるSGTを!と。
 
☆そして、この確信を改めて強く抱くようになったのは、おおた氏のインタビューを受けてからだ。そのときのまとまりのない話を、おおた氏が今回の新刊書に非常にわかりやすく記述してくれた。
 
☆しかも、最終章の最後の節にである。おおた氏の力作を最後に汚してしまうのではいかと心配であるが、私のような60代の老兵にも、まだ最後の仕事に立ち臨み、役に立てるかもしれないという希望と勇気を頂いた。おおたとしまさ氏には、心から感謝したい。本当にありがとうございました。
 
 
 

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