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2019年中学入試の新フレーム(177) 成立学園の半端ないソフトパワー

★成立学園は、2020年に中学開設10年を迎える。その成果は大学合格実績というカタチで示されているが、学校当局は、生徒1人ひとりが何を研究したいか、探究したいか、どんな役割を果たしたいかなど、自分と社会、自然の関係総体を考える中で出た結果であることが一番重要であると考えているようだ。
★しかし、これは言うは易く行うは難しで、教養と進学指導は必ずしもリンクしない。どうしても二兎を追う別プログラムが学内で走る場合が多いのである。ところが、成立学園の場合は、それが有機的にリンクしているため、生徒の成長の仕方が凄まじい。
★いったい、それはいかにして可能か?以前から気になっていて、そのことについて尋ねてみたいと思っていた。そんなとき、各種イベントなどで、すれ違ってはいるが、直接話したことのなかった宇田川知己先生にお会いする機会を得た。
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★宇田川先生は、同校の中学開設のときから、その構想やコンセプトを考え、試行錯誤してきたメンバーの一人である。
★したがって、いわば、コアカリキュラムのアースプロジェクトについてまずは尋ねてみた。洞窟探検や科学施設見学、海のフィールドワーク、屋久島のフィールドワーク、種子島の宇宙センターリサーチなど地球をめぐる体験をあらゆる角度から行うプログラムが満載。
★これらをまとめて、「アースプロジェクト」という総称で呼ぶことにしたのかというと、もちろん、そうではない。がしかし、たいていの場合は、バラバラの行事に一つの名前をつけてわかりやすく紹介しようという利便性やアピール性が前面にでがち。本質は見えない。
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★ところが、宇田川先生は、これらの様々なアクティビティを有機的にリンクするコンセプトを語る。ただ、語るだけではない。生徒自身が、多様な物事を有機的にリンクできるものの見方・考え方を身に着けるプログラムを創っているということについて語るのである。
★アースプロジェクトで身に着いた学び方や共に学ぶ方法は、今では他教科にも浸透し、知識を憶えて終わりではなく、自分の関心のあることにつなげて考えられるようにする本当の基礎学力がついている。
★知識の体系を客観的に広げられるだけではなく、自分の関心のあることにリンクできることこそオーセンティックであり、だからこそしっかり自分を見つめてキャリアデザインを描くことができる。
★では、多くの体験を積めば、みなそのような知識の体系と自分の関心事の有機的なリンクができるようになるのか?そう簡単ではない。体験を積むだけでは、その中で気づく生徒とそうでない生徒が分かれてしまう。しかも、気づかない生徒の割合が高くなってしまう。
★宇田川先生は、生徒1人ひとりが、異質なものでもリンクしていることに気づく学び方を身に着けて欲しいと語る。そのためのプログラムを試行錯誤してきたわけだ。それが、ナショジオプログラムなのである。
★ナショナルジオグラフィック社と連携して、地球のあらゆる出来事を一流カメラマンが撮影した写真を活用するプログラムである。
★宇田川先生は、「中1の段階だと、東南アジアやアフリカ、ヨーロッパの自然、そこで生活している子どもたちの様子が写っている写真を見て、まず驚く(WOW FACTOR)感性が作動するので、そこからリサーチや議論、編集、プレゼンといういわゆるアクティブな学びが始まります」と語る。
★このWOW FACTORこそ生徒一人ひとりの関心を掘り当てる大きな一歩だというのである。多様性の体験をしつつ、一方で世界の写真からインパクトを得ることの両方があるからこそ、自然のすばらしさの理解が深まり同時にその失われることの危機意識が芽生える。社会の希望と同時に絶望の両方を見つめる視点を身に着けることができる。自分が自然や社会とかかわることのかけがえのない価値を見出すと同時に、意外と身近なところにそのような価値を見いだせないでいる自分にも出会う。
★宇田川先生は、中1のときの素直なセンス・オブ・ワンダーは、中3あたりになると、学び慣れしてきて、効率よく効果的に編集してキーノートで発表するコトに力点が動いてしまう。テクニックに走る時期もあるのですと。しかし、そういう自分がいたということをリフレクションするようになると、一気に成長しはじますと微笑みながら語る。
★そして、自然や社会、精神の「暗」の部分い気づいたとき、その「暗」が生まれる理由が、自然、社会、精神に共通するものであるところに行き着くと、自然、社会、精神がリンクし始める。
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★その問題解決に挑戦するようになると、中3まで、一つの仕事を調べて卒業論文を書いてきたのだが、一つの仕事で解決できないというコトにも気づくと語る。
★かくして、生徒の成長の過程に寄り添うファシリテーションをプログラム自体が行っていくというシステムを宇田川先生をはじめとする成立学園の先生方は創り上げてきたのである。
★WOW FACTORは、中だるみというレールから外れる体験を通して、イノベーティブなインスパイヤ―が起こるエネルギーに転換する仕掛けになっているのではないか。
★各教科やイベントのコアカリキュラムがアースプロジェクトであり、メタカリキュラムがナショジオプログラムという構造になっているのだろう。なるほど、アースプロジェクトが見えない学力と呼ばれるゆえんである。そして、それこそが、成立学園のソフトパワーである。
★ところで、宇田川先生は、入試広報部のメンバーであるが、実はDATA管理部長である。2020年大学入試改革に向けてeポートフォリオがにわかに話題になっているが、すでに成立学園は、スプレッドシートやグーグルクラスルームを活用して、生徒の成長をサポートできるようになっている。もちろん、生徒1人1台タブレット活用は大前提であるが。
★つまり、宇田川先生は、成立学園の生徒の普段の成長ぶりをケアできる細心の目配りをしているのである。なるほど、ソフトパワーを創発できる学校には、宇田川先生のような学びのシステムエンジニアが存在しているのである。
★成立学園の未来型教育は、この学びのシステムエンジニアという教師力が縁の下の力持ちになっているから実現できているのである。教師力の概念のアップデートが必要だと気づくことができた。

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