☆松田先生の授業について、このブログに書きこもうと思った矢先、それまで聴いていたモーツアルトのアダージョ(オーボエなどの曲)のCDを、ブルックナーの交響曲七番のCDに取り替えました。同じアダージョでも重層の響をイメージしながらではないと松田先生の授業は語れないなぁと気づいたからです。
☆授業のテンポとか旋律のイメージは、教師によって違うでしょうが、松田先生の場合はブルックナーの7番かなあと。私が研修でジグゾー法をやるときはモーツアルトの38番か魔笛をイメージしながらやります。ぐるぐるメッソドを使うときはマーラーのシンフォニー5番のアダージョかな。
☆国際教育研究家の岡部憲治さんの授業からは、リヒャルト・シュトラウスのヒーロー。京北学園の校長川合先生の授業からは、ジョン・レノンのイマジン。開成の橋本先生の授業からは、グレン・グールドのバッハの演奏。麻布の校長氷上先生(授業は直接みていないけれど、語り口調や文章を手がかりに)からは、ベートベンのシンフォニー7番のイメージを喚起します。これらはまったくの独断と偏見ですが^^);
☆さて、松田先生の授業についてですが、なぜターニングポイントかということでしたね。日能研編集の「2008年首都圏入試白書」によると、今春の首都圏の中学受験の受験率(受験者÷小学校卒業生)は、20.6%です。なんて感慨深いのでしょう。98年、99年は、それまで右肩上がりで、93年から受験率13%を超えてきていたのに、13%を切る時代を迎えてしまったんですね。
☆そのとき私学の先生方が、いろいろなところで宿泊までして勉強会をして、もう一度13%を超えようと知恵を絞り、多様な自己表現を開始したんです。岡部さんとこのThe授業リンクの事務局をやっているNTS教育研究所の石井さん、今はリクルートのキャリアガイダンス編集で活躍している江森さんといっしょに、セミナーをかなりの回数企画し開催しました。
☆私たちのセミナーや勉強会は、大学の先生や企業人に基調講演を頼むものではなく、私学の先生方に基調講演を頼むものでした。ですから、ビジョンや戦略的な話だけではなく、最前線で役立つ戦術論の話にもなりました。そういうセミナーや勉強会を通して、出会った先生方ともっと本質的な私学の魂を表現しなければという共通意識が芽生えてきました。それがThe授業リンクの前身のCALだったのですね。
☆当時受験率13%にこだわったのは、この地点に到達すると口コミが爆発的に広がる可能性が高いと言われていたからなのです。せっかく13%に到達したのに、それが右肩下がりになりはじめた。放っておくと私学のマーケットが冷え込むという危機感を先生方は持っていたのですね。
☆だから、従来のように宣伝のためのパンフレットを作り、それを読んでいるような学校説明会だけではチェンジできないだろうということになったのです。チェンジはまず方法論や学校同士のネットワーク作りからはじまりました。自分の学校だけでがんばっても、そもそも市場そのものが冷え込んだのではどうしようもない。マーケットの質と量を拡大しようと。
☆そこで合同説明会が花開き、ちょうどホームページという新しいメディアも現れたので、表現のイノベーションも各校がどんどん行っていきました。しかし、量の追求は、学校の場合は限界があります。内発的な成長路線に切り替えるにはどうするか、それが問題だということになりました。
☆それには本質の表現以外にあり得ない。私学の本質を表現する最高のリソースは何か。授業以外にあり得ないではないかというのがCALの出発点でだったのです。当時は誤解も多く、授業を販売促進の材料にするのかという意見も多々ありました。
☆そうではなく質の表現の重要性だったのです。当時の学校選択の指標は、大学進学実績と偏差値という量によるものだったんですね。マスコミもその指標を前面にだしていました。これでは、明治以来、官僚近代に対峙し続けてきたもう一つの近代の理想郷であった私学の精神が、崩れてしまうという危機感が本音の部分であったのです。
☆私学の先生方の努力と国の教育行政の失敗があいまって、受験率はすぐに13%を超えました。同時にマスコミも、まだまだとはいえ、学校選択の指標を量から質にシフトしてきました。「授業」で学校を選ぶという視点で取材をし続ける教育ジャーナリスト鈴木隆祐さんの登場はその象徴です。
☆そして受験率20%を超えました。CALもThe授業リンクとしてステージをチェンジしました。なぜか。20%:80%の論理展開ができるようになったからです(東京都の私学に限れば、2001年以降20%を超えています)。これはやっと私学の教育力が世の中に大きな影響を与えるターニングポイントを迎えたことを意味します。
☆明治以降の日本の教育は、官僚近代教育です。そこで細々と私学は本質的近代の追究を継承してきました。しかし、やっとその流れが大きくなったことを意味します。しかし、そのときに、私学が大学進学実績をアップするための授業をやっているというイメージをもしもマスコミによって表現されたり、私学自ら意図に反してそのような表現をしてしまったら、その影響力を本質的近代の追究に活用できず、振り返れば官僚近代教育を後押ししていたなんてことになりかねません。
☆私学が公立学校よりよいということを言いたいのではないのです。官僚近代教育の閉塞と抑圧に苦しむ子供たちの環境を変えるためのトリガーが、歴史的社会構成上、私学なんだと言いたいだけなのです。しかし、私学が一致団結して、リフォメーションを起こすことは考えられません。あくまで教育ですから、見識と知恵と教養で世界を変えるしかないのです。
☆見識と知恵と教養は授業で生まれます。それぞれの私学が、そして公立が、教育の最前線で、大学受験のための知識や学習指導要領で配列された断片的知識を獲得するための授業を廃し、本質的授業を展開すれば、おのずから世界が変わる20%:80%の論理が展開するときがやってきたのです。
☆松田先生は授業を通して、私学公立問わず共鳴共振の響を伝えているのです。ブルックナーの7番の響にのせて。松田先生は、あのダニエル・ゴールマンも推奨する“RESONANT LEADERSHIP”の持ち主なのですね。<いま・ここで>の世界のターニングポイントは、軍事力や経済力によるものではないのです。知の響を共振し合うことで変わるのです。
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